アジアの情報技術(IT)人材活用の戦略性

2000.9.27  CICC シンガポール 小紫正樹

 

<概況

米国のIT産業のかなりの部分をインド、中国、フィリピン出身のIT技術者が担っていることは有名な事実である。米国の商務省の資料によれば、米国では2006年には1378000人のIT技術者が不足するとされており、海外からのIT人材の流入を促進するため、IT分野のVISA発給枠を年間20万人へと大幅に拡大している。また、最近は、ドイツが2万人分のIT技術者VISA発給を決め、多くのアジアIT技術者を吸収し始めている。さらにシンガポールにおいてもIT技術者不足であり、同国のIT技術者の27%が外国人となっている。今後、日本もこのIT人材獲得競争に入らざるを得えなくなるであろう。

日本は、未だ、アジアのIT人材を有効に活用しているとはいえない。今後、政策的に促進すべき分野であろう。

 日本のソフトウエア企業の海外外注先は、韓国、台湾、中国、インドのだいたいこの順番で開拓が進んできている。韓国は日本に距離的・文化的に近く、ソフトウエアの外注先として、基本的には発注しやすい国である。ただし、日本のIT開発に協力する潜在人数は、中国、インドに適わないであろう。ちなみに、日本からのソフトウエア外注の場合、日本語を理解するキー・パーソンが重要な役割を果たしている。この観点から、日本への留学生の多い、中国、韓国は優位である。

 参考までに、東南アジアでのIT人材供給の状況を鳥瞰図的に見てみたい。いずれも、正確な統計を望めない国であることを念頭において表を見ていただきたい。

表 アジアにおけるIT人材の供給状況

国名

概要

シンガポール

IT系学生年間卒業生2,250

タイ

大学IT関連学部年間卒業生数4,0005,000

マレーシア

 

大学工学部・工専の年間卒業生21,000

マルチメディア大学(3年制、学生数3,300人、2002年には12,000人へ)

フィリピン

大学工学部卒業生は年間40,000

香港

大学IT関連卒表生年間4,000

インド

高級エンジニア卒業生年間122,000

中国

同上

出所:(財)国際情報化協力センター

 

シンガポールでは、毎年、3,000名−4,000名のIT人材が新規に求められている。大学、ポリテクのIT学部の卒業生は、2,250名であり、完全に不足している。情報技術エンジニア不足を解消するために海外からの技術者導入を積極的に進めている。シンガポールにおける情報技術エンジニアのうち、海外からの技術者は27%(永住権保有者は18%、就労許可証保持者9%)である。海外からのIT技術者の出身国は、マレーシア51%、インド16%、中国12%であり、この3国で外国人IT技術者の79%を占めている。

最近の東南アジア・コンピュータ連盟(SEARCC: South East Asia Regional Computer Confederation)の調査によれば、アジア諸国のIT技術者の多くの国の学卒数年目の年間所得は、5,000米ドルから10,000米ドル以下である。特に、インド、インドネシア、パキスタン、スリランカでは、過半数以上のIT技術者の年間給与は5,000米ドル以下の年収水準である。また、フィリピン、タイでは、これよりも高給ではあるものの、5,0008,000米ドルの間にある。これらの人が、毎年、相当の数で、C++JAVAのプログラム作業の分野に入ってきている。

 

. アジア諸国のIT技術者の給与水準(年収、単位%)

国名

合計

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

インド

100%

69.8

11.1

4.6

2.6

2.7

1.1

1.0

0.9

2.9

0.4

0.9

2.0

インドネシア

100%

78.3

7.4

5.4

2.7

1.0

0.5

1.5

0.5

0.5

0.7

1.0

0.5

日本

100%

0.0

0.0

0.1

0.0

2.2

11.1

14.8

26.6

35.6

5.5

3.2

0.9

パキスタン

100%

69.5

14.4

6.3

3.6

2.6

0.7

0.8

0.5

0.6

0.3

0.2

0.5

フィリピン

100%

43.6

18.3

7.8

11.3

7.2

4.1

1.5

1.1

1.7

0.9

1.3

1.1

シンガポール

100%

3.0

1.2

2.4

11.6

34.9

20.3

10.7

8.0

5.9

0.9

0.4

0.7

スリランカ

100%

72.8

13.9

4.7

2.3

2.6

0.9

0.6

0.9

1.3

0.0

0.0

0.0

タイ

100%

36.9

31.4

11.8

6.9

5.3

3.3

2.0

0.8

1.2

0.0

0.4

0.0

平均

100%

50.3

10.1

4.6

4.1

6.7

4.8

4.1

5.2

6.9

1.2

0.9

1.1

出所:東南アジア・コンピュータ連盟調査

1:

<US$5K

4:

US$12K-<17K

7:

US$35K-<44K

10:

US$87K-<100K

2:

US$5K-<8K

5:

US$17K-<26K

8:

US$44K-<58K

11:

US$100K-<125K

3:

US$8K-<12K

6:

US$26K-<35K

9:

US$58K-<87K

12:

³US$125K

Figures in US currencies are translated from local currencies by individual countries.

 

アジアの諸国のIT技術者を活用することは、日本と他のアジア諸国の双方のメリットになり、また、優良なコンピュータ・システムを安価に構築できるとの観点から、日本の経済の強化につながるといえる。

 

<インドのIT人材活用の重要性・戦略性>

多くのインド企業が、米国や欧州企業のIT業務を請け負っている。米国経済の強さと好調をインドIT産業、IT人材が担っていると言う言葉を良く聞く。実際、欧米のIT開発の質、量の両面のかなり重要な部分をインドのIT技術者が担っている。例えば、あるインド大手IT企業は、750人の技術者を米GE社のためにだけに割り当てている。1999年のインドのソフトウエア産業の売上の70%が海外市場向けである。そのうち、北米が62%、欧州が23.5%、日本向けが3.5%である。

 インドのIT産業は近年、急速に成長している。大手のソフト企業Wipro社などは、従業員1万人。このうち、学卒以上が7000人程度。毎年、売上を50%程度伸ばしてきており、毎年数千人単位で採用を続けている。日本も、いわゆる高度成長期には、このような企業が多く存在した。但し、インドIT産業の問題点は、米国一極集中型であることである。ほとんどが輸出からの収入であり、そのうちの65%程度が米国であり、日本向けは4%弱に過ぎない。インドIT企業の幹部は、この危険性を十分に認識し、日本市場の開拓に努めている。

表 インドのIT産業規模の推移及び予想

年度

市場規模(US億ドル)

1996-1997

38.0

1997-1996

50.3

1998-1999

60.4

1333-2000

86.0

2008

1,400

出所: NASSCOM

 

既にいくつかの企業は東京に事務所を開設しており,開設して初めて東京のコストが予想をはるかに上回るものであったことに驚いている状況である。インドのIT技術者は、ある部分では日本よりも高度であり、コストも十分に高くなっている。また、海外のIT技術者が日本で働く場合には、給与は日本人とほぼ同じとなる。それでも、海外の優秀なIT技術者を日本が受け入れることが必要である。(以上)