ミャンマーの情報技術産業政策

(目次)

 

1. ミャンマー連邦の概要

2.コンピュータ設置状況

3.国家平和開発評議会の情報化への姿勢

4.コンピュータ科学技術開発法

5.情報化政策担当機関

6.ミャンマー・コンピュータ連盟、協会

7.情報技術者の育成策

8.情報技術産業の歴史及び現状

9.通信関連の動向

10.情報技術の応用の現状

 

 

ミャンマーの情報技術産業政策

 

  1. ミャンマー連邦(Union of Myanmar)の概要
  2.  

    (1)面積・人口

    i.面積 67.7 平方Km( 日本の1.8 )

     ii. 人口 4,640万人、

       a. 年間人口増加率 1.84%(推定)

       b. 識字率 83% ( タイ93% 、マレーシア78%) (95)

     

    (2)国内総生産

     i.GDP:1 675 22百万チャット

     ii.1人当たりGDP: 36,104 チャット、ドル換算推定 270 406 ドル

    iii.産業構成: 一次産業58.7% 、二次産業10.7% 、三次産業30.6%

     

    (3)貿易

     輸出:10 400 万ドル

      主要輸出品目: 農産物36.1%(豆類、米等)

             林産物23.7%(チーク加工品、堅木製品等)

             水産物11.4%(天然エビ、魚等)

     輸出相手先: インド、シンガポール、タイ、中国、香港、日本

    輸入:22 4200万ドル

    主要輸入品目: 資本財49.1%(輸送機器、機械設備、建設資材等)

             消費財35.5%(食用油、ミルク、香辛料等)

             中間財15.5%(原材料、部品等)

      輸入相手先: シンガポール、日本、タイ、中国、マレーシア、韓国

    貿易収支: マイナス123800万ドル

     

    (4)外国投資

     i.累積投資認可額(1988.11-1998.7) 707400万ドル(307)

      国別 1 位 シンガポール 14 8900万ドル(67 )

         2 位 英国     13 5300万ドル(33 )

         3 位 タイ     12 4200万ドル(43 )

         ....

         9 位 日本     2 1900万ドル(19 )

     

     

    (5)最近の国内経済指標

    1991fy 1992fy 1993fy 1994fy 1995fy 1996fy 1997fy

     名目GDP(10億チャット)

    187 249 360 473 605 791 1,068

      実質経済成長率(%) -0.6 9.7 6.0 7.5 6.9 6.4 4.6

     消費者物価上昇率(%)  32.3  21.9  31.8 24.1 25.2 16.3 29.7

     財政収支 (GDP 比、%)-6.6  -4.8 -4.3 -6.2 -6.4 -6.5 -6.1

     

    (6)日本の政府援助の状況

     1988から、緊急的・人道的援助案件以外については、新規援助は原則停止していたが、1995年のアウン・サン・スー・チー女史の自宅軟禁解除を評価して既往継続案件や基礎生活分野の案件を中心にケース・バイ・ケースで対応することとなっている。

     1995年には「看護大学拡充計画」(16.25億円) 、「食料増産援助」(10 億円) の無償援助実施。1998年にも「食料増産援助」(8億円) を実施予定。

     有償資金協力は、工事途中で停止されていた「ヤンゴン国際空港拡充計画」の25億円規模の工事を再開することを1998.3. にミャンマー側に通報したところ。

     

    (7)経済概況

     ネ・ウィン政権の下で26年間(1962ー88年)にわたり、閉鎖的な、農業を中心とする自給自足的な「ビルマ式社会主義」が続けられてきたが、1988年経済的破綻等を背景に民主化要求の騒乱が発生し、国内が混乱上状態に陥る中で国軍によるクーデターが発生。以来「国家法律秩序回復委員会」(SLORC)による軍政が開始された。軍政の下では政治的には野党党首アウンサン・スーチー女史の自宅軟禁(89年)、総選挙結果を無視した民政移管の拒否(90年)といった強硬路線がとられているが、経済政策の面では、社会主義経済体制の放棄、市場指向経済への移行が宣言され、実際多数の分野で株式会社の設立が進んでいる。96年時点では雇用者総数の10%程度が私企業によって雇用されるまでになった。また騒動直後の88年11月には外国投資法が制定され、外国資本の投資受け入れが可能となった。この結果89、90年には欧米から石油ガス関連の投資が活発に行われた。しかし近年は米国を中心とする先進諸国が人権問題への反発から投資、貿易、援助を手控える中で、シンガポール、タイなど周辺アジア諸国からの投資が活発化しており、ホテル、流通、エアラインなどの分野で特に活発である。

  3. コンピュータ設置状況

  1. 導入設置状況

 ミャンマーに初めてコンピュータが導入されたのは1970年代の初頭である。UNDPの援助により1971年に当時のラングーン大学にICL製の汎用機が導入され、また1973年に実施された国勢調査の集計のために政府の中央統計局(CSO : Central Statistical Organization)にも汎用機が導入された。その後他の政府機関でもミニコンの導入が見られたがその総数は20台前後と見られる。一方、開放経済への移行後の90年代に入って政府機関や教育部門、印刷部門へパソコンの導入が進んだ。設置台数についての公式統計は存在しないが、最近数年間の導入台数、96年末時点での累積設置台数は以下のように推計されている。

 

表1 クラス別の販売台数推移(推計)

機種別販売台数

〜93年

94年

95年

96年

累計

汎用機

2

-

-

-

2

ミニコン

18

-

-

-

18

IBM互換パソコン

12,000

2,900

4,800

10,000

約30,000

Apple

2,000

100

3,200

2,000

約7,000

(出所)ミャンマーの現地業界誌"Computer Journal"による推計値をベースに筆者作成。

 

(2) 輸出入状況

 

 ミャンマー国内で販売されているコンピュータは全て輸入である。輸入形態としては

(1)完成品の輸入(ブランド品は全てこの方式)

(2)海外で働くビルマ人によるハンドキャリー輸入

(3)部品を輸入し、国内で組み立て

の3通りの方法があり、当初は(1)のルートによるものも相当数あったようだが、米国内における対ビルマ取り引き企業に対する不買運動等の影響によりブランドメーカーは近年撤退の傾向にあり、95年以降は(3)によるものが全体の80%程度を占めるようになっている。この場合パソコンは完成品キットとして輸入され、現地で組み立て後ローカル企業のブランド銘板が張り付けられて出荷される。1990年以降パソコンの輸入販売を行う企業が多数設立されつつあり、90年には5社だったものが最近時点では49社に増加している。現在の輸入の大部分はシンガポールからのものである。パソコン輸入にかかわる輸入関税は1台あたり4千チャット(約25米ドル)であり、税率2%程度といったところである。

 

 

3. 国家平和開発評議会(State Peace and Development Council)の情報化への 姿勢

 長い「ビルマ式社会主義」の鎖国時代は、文化的にも極めて閉鎖的な政策がとられてきたため、情報化振興政策と呼ぶべきものは全く無かった。これに対して1988年に登場した国家法律秩序回復評議会SLORC)は情報化に極めて積極的である。特に軍政の実質的な最高責任者と見られているキン・ニュンSLORC第一書記(国防省情報局長、Lt. General Khin Nyunt)は人材育成、コンピュータ教育を極めて重視しているといわれ、彼のリーダーシップの下で情報技術導入についても積極的な政策がとられている。その体制は後述する「コンピュータ科学開発法」に示されているが、同法実施の責任機関である「ミャンマー・コンピュータ科学開発審議会」の議長もまた同書記が務めている。

 

4. コンピュータ科学技術開発法

SLORCは1996年9月にコンピュータ科学開発法(The Computer Science Development Law : SLORC Law No. 10/96)を制定した。全文11章、42条からなり、ミャンマーにおける今後の情報化推進政策の枠組みを与えるものである。その主な規定は次のとおり。

 

ミャンマー・コンピュータ科学開発審議会(第4条〜7条)

 SLORCは「ミャンマー・コンピュータ科学開発審議会」(Myanmar Computer Science Development Council)を設置する。そのメンバーはSLORCの指名するものを議長(実際にはキン・ニュン第1書記)とし、関係閣僚や機関の長、科学者等から構成され、教育省の副大臣を事務局長とする旨が規定されている。97年1月1日以降は新設された科学技術省の大臣が事務局長を務めている。同審議会は情報化政策に関する重要な決定を全て行う。特に注目されるのは「輸出入の許可されるソフトウェアと情報(information)の種類(type)」に関する決定権限がこの中に含まれることである(第7条(i)項)。

 

コンピュータ協会(第8条〜17条)

 愛好家(Enthusiasts)、科学者(Scientists)、企業家(Entrepreneurs)の3分野におけるコンピュータ協会(Computer Association)を全国的な規模のピラミッド構造として設立することが規定されている。ミャンマーの行政単位は国、州/管区(State or Division)、地区(District)、タウンシップ(Township)の4階層からなるが、コンピュータ協会は上記3分野でそれぞれの行政単位ごとに作られる。法律には協会の機能についての規定がないが、非営利機関であるとされ、情報化に関連したボトムアップの動きを作り出すことが期待されているようである。

 

ミャンマー・コンピュータ連盟(第18条〜25条)

 ミャンマー・コンピュータ科学開発審議会は愛好家、科学者、企業家の3分野における全国レベルのコンピュータ協会の代表から構成される「ミャンマー・コンピュータ連盟」(Myanmar Computer Federation)を設立する。連盟は非営利の非政府組織(NGO)でありコンピュータの普及、コンピュータ科学に関する研究、教育カリキュラムの開発、資格試験の実施、コンピュータ生産者への指導・助言、審議会や政府への政策提言、国際交流、ミャンマー語に関する情報処理技術の開発、出版事業や図書の収集整理、表彰などあらゆる分野の活動を行うことと規定されている。政府からの補助金や外国からの援助もまずこの連盟が受け入れ窓口となる模様である。

 

ネットワーク利用に関する事前許可とライセンス(第26条〜30条)

 ネットワークの一部として利用されるコンピュータ(或いはFAXモデムカード内蔵型のコンピュータ)については、通信省(Ministry of Communications, Posts and Telegraphs)が審議会の承認を得て型式を指定することとされ(第26条(a)項)、これに該当する機器を輸入、所有或いは利用しようとするもの及びネットワークを構築しようとするものは事前に通信省に申請を行い、許可を受けなければならないことが規定されている。

 

違反と罰則に関する規定(第31条〜39条)

 特に厳しいのはネットワーク利用のためのコンピュータを規定する第26条(a)項に関連する違反であり、禁固7〜15年の刑が課せられる。また第7条(j)項に基づき指定される輸出入許可対象のソフトウェアや情報を許可なく輸出入した場合には禁固5〜10年の刑が課せられる。この他にも幾つかの規定がある。

 

  1. 情報化政策担当機関
  2.  

    (1)コンピュータ科学開発審議会(Myanmar Computer Science Development Council)

     「ミャンマー・コンピュータ科学開発法」に基づいて設立される予定の機関。議長はSLORCのキン・ニュン第一書記が務め、関係閣僚、政府機関の代表、科学者、産業界の代表等で構成される。ミャンマーのコンピュータに関する最高の政策決定機関である。

     

    (2)科学技術省(Ministry of Science and Technology)

     96年に新設された。この新設大臣ポストにはミリタリー・アカデミーの第1期卒業生であり、過去5年間にわたり駐米大使を務めていたたウ・タウン中将(Lt. General U Thaung)が任命された。97年1月からは、ミャンマー・コンピュータ科学開発法の実施に関する事務は教育省に代わってこの科学技術省が担当することとなった。またこれと併せて次の4校の工科系大学が教育省から同省へと移管された。

    Yangon University of Computer Studies (YUCS

    Yangon University of TechnologyYUT

    Mandalay University of TechnologyMUT

    Mandalay University of Computer StudiesMUCS

     

     更に従来教育省の下にあった国立研究所Central Research OrganizationCRO)が新しく

    Myanmar Science and Technology Research DepartmentMSTRD

    と改組・改名され、科学技術省の下に移管された。従って今後は情報化政策も含めて、同省の下で科学技術に関する高等教育、研究が一括して推進されることになる。

     

  3. ミャンマー・コンピュータ連盟・協会
  4. 情報技術がミャンマー国の発展のために戦略的役割を果たすため、政府の指導の下、コンピュータ技術の促進が図られている。情報技術開発を組織的に進めるため、ミャンマー政府は1996年9月30日にミャンマー・コンピュータ科学開発法(前述)を制定した。この法律によって、第一書記を議長とするミャンマー・コンピュータ科学・開発評議会が設立された。

    同法及び規程に従い、ミャンマー・コンピュータ科学者協会(MCSA: Myamar Computer Scientist Association)とミャンマー・コンピュータ産業協会(MCIA: Myanmar Computer Industry Association) が1998年5月17日に設立され、ミャンマー・コンピュータサ・クル協会(MCEA: Myanmar Computer Enthusiast Association) が、1998年7月24日に設立された。これらの3 つの協会の上に、ミャンマー・コンピュータ連盟(MCF: Myanmar Computer Federation)が、1998年10月15日に設立された。

    MCSAは、メンバー約400名。MCEAはメンバー52社。それぞれの役員名簿及び定款は別紙1、2のとおり。MCEAは、全国の小、中、高等学校の生徒の内、コンピュータに関心を有する者の協会である。高校のみで700校以上あり、その設立に時間がかかっていた。

     MCFは、ミャンマーを発展させるためにコンピュータ技術を推進するため、前述の法律に基づき、次の義務と権限を有している。ミャンマー政府は、情報技術の現状を分析中であり、情報技術マスター・プランを制定しようとしており、これらは、ミャンマー情報技術マスター・プランの基礎となるものと考えられる。

    (a) 技術進歩に遅れずに国内のコンピュータ科学発展を進めること

    (b) コンピュータ科学の研究を実施し、研究者を支援すること

    (c) 各分野でのコンピュータ科学の利用を促進すると

    (d) コンピュータ研修スクールの教育要綱・カリキュラムを作成すること

    (e) コンピュータ研修スクールの教育を審査し、標準レベルに達しているかどうかを判断

    すること

    (f) コンピュータ科学コース、講義、競技を実施し、調査視察旅行を組織すること

    (g) コンピュータ科学の試験を実施し、資格・賞状付与等を行うこと

    (h) 評議会に対し、コンピュータ科学に関する助言を行うこと

    (i) コンピュータ・ハードウエア及びソフトウエアの品質向上のための支援を製造企業に

    与えること

    (j) コンピュータ・ハードウエア及びソフトウエアの生産、国内外での販売への支援を行

    うこと

    (k) 評議会の指導の下、情報技術に関するプロジェクトを実施すること

    (l) 国際コンピュータ組織と連絡すること

    (m) 国内・海外での会合、会議、ワークショップ、セミナー等への代表団派遣を調整する

    こと

    (n) コンピュータでのミャンマー文字利用のためのシステム開発を実施すること

    (o) 政府部門・機関に対するコンピュータに関する助言を行うこと

    (p) コンピュータに関する書籍、資料、定期刊行物を出版すること

    (q) 国内外のコンピュータに関する書籍を収集し、図書館を設置すること

    (r) 若者特に学生のために、コンピュータ基礎知識を獲得し、優秀なコンピュータ科学者

    の出現を促進すること

    (s) 優秀なコンピュータ科学者や発明家に賞金を授与すること

    (t) 優秀なコンピュータ科学者や発明家への国家表彰に関し、評議会に対し助言すること

    (u) コンピュータ科学者及び発明家の利益保護のための助言を評議会に行うこと

    (v) 必要な委員会、機関を設置し、その機能と役割を決定すること

    (w) 評議会から指示されたコンピュータ科学に関する業務を実施すること

     

    政府、コンピュータ連盟、各協会は協力し、コンピュータ科学の発展を促進し、国内・国際のシンポジウムを開催している。ミャンマーでの情報技術イニシアティブに関する最初のシンポジウムは、1998年6月29日、ヤンゴンにおいて開催された。第2 番目のシンポジウムは、1998年10月24日 にマンダレーにおいて開催された。また、PIKOM(マレーシアコンピュータ協会) 及びMastech 社とMCSA及びMCIA共同の情報技術シンポジウムが1998年10月13日に開催された。

     さらに、ミャンマーコンピュータ連盟及び協会は、 (財) 国際情報化協力センター(CICC)と協力し、1998年9月、ロンドンで開催されたISO/SC2/WG2 の「コンピュータにおけるミャンマー語のキャラクター・セット/ISO 10646 」での討議を成功裏に完了した。また、11月9日、10日には、2国間情報化協力会議をヤンゴンにおいて開催し、1998年度に、5 名のミャンマーのコンピュータ技術者が、東京でのCICC研修に1999年1月から参加することとなった。また、JISA及びPIKOM の協力で、ミャンマーコンピュータ連盟は、1998年11月26日-28日 のマレーシアKLでのASOCIOに参加した。

     

  5. 情報技術者の育成策
  6. (1)概況

    ミャンマーでのコンピュータ科学教育の歴史は、ラングーン大学コンピュータセンター(UCC) が設立された1971年にスタートした。大学院コースであるM.Sc.(Master of Computer Science) 及びD.C.Sc.(Diploma in Computer Science)クラスは、1973年に開校された。しかしながら、入学生は非常に限られた人数であった。1986年には、学部コースであるB.C.Sc. とB.C.Tech. が導入された。1988年まで、入学生は毎年90名の少数であった。

     1996年10月に科学技術省が創設され、その下にYangon University of Computer Studies(YUCS) とMandalay University of Computer Studies(MUCS) が設立され、合計400 名の入学生が認められた。さらに、1998年には、YUCS及びMUCSにおいて、B.E.H.S.クラス卒業生に対し、アンダーグラデュエイト・ディプロマクラス(Dip.CS 及びDip. CM)が開校され、両校の入学生数は毎年合計800 名まで認められるようになった。そのようなディプロマクラスは、2001年までに5000人のアンダーグラデュエイト・ディプロマ研修生を育てるとの目標の下、今後、多くの都市、地方で開校されることとなろう。また、ミャンマー政府では、民間コンピュータセンターの運営を認可して来ており、そこでは、ソフトウエア・アプリケーション及び国際ディプロマ・コースが実施されている。民間センターでは、毎年3000人の資格保有者を卒業させている。

     1996年には、国家の指導の下に国家レベルのプロジェクトがスタートした。そのプロジェクトによって、数多くのコンピュータが購入され、コンピュータ技術を基礎教育生徒に普及するとの観点から、学校に設置された。これは、まさに将来を見据えた新しい世代のための施策である。

     

    (2)ヤンゴン・コンピュータ技術・大学(YUCS: Yangon University of Computer Studies)

    ミャンマーでコンピュータ関係の学位を授与する代表的高等教育機関はヤンゴンにあるYUCSである。同校はもともとラングーン大学(現ヤンゴン大学)のコンピュータ・センター(UCC: Universities Computer Centre)として1970年に発足したものだ。UNDPの援助によりICL製の汎用機が導入され、これを契機として同大学数学科の中にコンピュータ科学の修士課程が創設された。その後もいくつかのコースが追加され、また1988年には現在の独立した工科大学であるICSTとなり今日に至っている。1993年にはイギリスのNational Computing Centre LtdNCC)との協力のもとで国際的な通用性のある学位としてInternational Diploma in Computer ScienceI.D.C.S.)コースも創設された。これら全てのコースを合計した創立以来の延べ卒業生数は96年時点で約1000人を超える。政府や民間のコンピュータ部門で働く中堅以上の人材はほとんどがここの卒業生である。現時点での年間の卒業生数は学部レベル(5年間教育)で45人、修士レベルで10人程度、Post-Graduat Doplomaで70人程度となっている。なお同校は従来教育省の監督下にあったが、1997年1月からは新設の科学技術省の監督下に移管された。

     

    表2 ICST(現YUCS)のコース別累積卒業生数

    授与学位名

    累積卒業生数

    Bachelor of Computer Science (B.C.Sc.)

    102人

    Bachelor of Computer Technology (B.C.Tech.)

    38人

    Master of Computer Science (M.C.Sc.)

    133人

    Post-graduate Diploma in Computer Science (D.C.Sc.)

    479人

    International Diploma in Computer Science (I.D.C.S.)

    340人

     

    ICSTのコンピュータ・ルーム。合計200台余のPCがある。

     

    (3)民間のコンピュータ教育機関

     歴史は新しいが、民間コンピュータ教育機関もミャンマーの人材育成に当たって大きな役割を果たすようになってきている。ミャンマーのコンピュータ専門誌"Computer Journal"の調査によれば、現在ヤンゴン市内だけでも65校のコンピュータ学校がある。これらの半分以上は設置するコンピュータ台数が10台以下という小規模のものであるが、設置台数が50台を超える規模のものも3校あり、これらは国内各都市に校舎を有し、また教育水準の点でも、ICSTと同様イギリスのNCCとの協力によって国際的な通用性のあるIDCS(あるいはその更に上位の資格であるHDCS)コースを設けるなどICSTに比べても遜色のないコンピュータ教育を行っている。こうした民間教育機関の教師陣の多くはICSTやヤンゴン工科大学の卒業生である。

     こうした民間教育機関の中で最大のものはU Thaung Tin氏の運営するKMDであり、全国に11ヵ所の教室を持ち、合計のPC保有台数が430台。パートタイムベースでの受講生が毎月約1、000人、1年間の受講を必要とするディプロマ・コースの受講生が約300人という規模である(いずれも訪問時点である97年1月現在の数値)。

     一方これらの受講料は、上記KMDの場合について見ると、パートタイムベースのコースが延べ100時間のコース料金として4、000チャット(約25米ドル)、1年間のディプロマ・コースの料金が4万チャット(約250米ドル。この他NCC準拠の試験受験のためには受験料として別途250米ドルが必要)であり、単純労働者の月収が千チャット前後であることを考えればかなり高いものであるが、その人気は上昇する一方のようだ。受講者はヤンゴン市内だけでも合計で毎月6000人に達すると推定されており、その平均像は学生(60%)、就職予備軍(10%)、政府/企業からの研修派遣スタッフ(30%)といったところのようだ。

     

    表3 民間コンピュータ教育機関の累積卒業生数(1996年末)

    授与学位名

    累積卒業生数

    Bachelor of Computer Science (B.C.Sc.)

    45人

    Master of Computer Science (M.C.Sc.)

    10人

    Post-graduate Diploma in Computer Science (D.C.Sc.)

    70人

    International Diploma in Computer Science (I.D.C.S.)

    225人

    BASIC

    24、000人

    Windows

    36、000人

    Graphic

    300人

    Programming

    1、000人

    Hardware

    3、600人

    Network

    800人

    System

    5、400人

    CAD

    500人

     

    民間コンピュータ・スクール最大手のKMDヤンゴン本部の教室風景。

    全国に11ヵ所の教室を持ち、パソコン430台を保有する。

    毎月約千人が受講している。

     

    (4)初等・中等教育課程へのコンピュータ導入

     ミャンマーにおいて特徴的なのは初等・中東教育課程へのコンピュータ導入が極めて積極的に進められていることである。ヒューマン・インターフェースの簡便性という観点から導入機種としてはAppleが選ばれており、1995年末には一挙に3000台が購入され、全国の学校に設置された。マンダレー市内のCham Aye Dha Zen地区にある同区第7小中学校では、独自に開発したカリキュラムに従い、全ての中学生が毎日1時間(週6時間)づつ1.5ヵ月間にわたり、延べ40時間の実習を行っているとのことであった。長期的な目標として生徒1000人当り4台のパソコン導入を進めるという計画であり、ミャンマーの生徒数は小学生が540万人、中学生が150万人、高校生が40万人であるから、計画通りに導入されれば合計30万台が必要となる。

     

    表4 ミャンマーの初等・中等教育

     

    82/83 87/88 92/93 93/94 94/95 95/96

    学校数(高校)

    (中学)

    (小学校)

    624 722 856 858 858 914

    1,415 1,696 2,054 2,058 2,058 2,089

    23,453 31,329 35,657 35,727 35,741 35,752

    教師数(高校)

    (中学)

    (小学校)

    8,981 14,919 15,665 15,225 15,102 na

    23,467 61,090 134,292 51,462 77,156 na

    82,799 97,763 154,759 156,629 158,011 na

    生徒数(高校)

    (中学)

     (小学校)

    237 241 319 361 378 394

    965 1,095 1,109 1,159 1,358 1,529

    4,538 5,046 5,919 5,896 5,531 5,414

    (出所)Central Statistical Organization, "Statistical Abstract 1996"

     

    マンダレー市内の第七小学校兼中学校にてコンピュータ実習する生徒達。

    年齢は12歳。一月半かけて述べ40時間の実習をする。

     

    (5)ミャンマーの高等教育機関(参考)

     ミャンマーには1996年現在2年制から7年制まで含めて合計40校の大学、高等教育機関がある。全て国立大学であり、これらに在籍する教官数は合計約6、000人、学生数は合計約34万人に達する。表9にこのうち主要なものの一覧を掲げる。

     

    表5 ミャンマーの主要な高等教育機関

    大学名

    所在地

    設立年

    教官数

    学生数

    University of Yangon

    ヤンゴン

    1920年

    2,060

    47,131

    Yangon Institute of Technology(YIT)

    ヤンゴン

    1964年

    N/A

    N/A

    Institute of Medicine

    ヤンゴン

    1964年

    N/A

    N/A

    Forign Language University

    ヤンゴン

    1984年

    51

    1,318

    Institute of Economics

    ヤンゴン

    1964年

    283

    5,015

    Institute of Education

    ヤンゴン

    1964年

    N/A

    N/A

    Institute of Agriculture

    ヤンゴン

    1924年

    105

    1,161

    Institute of Animal Husbandry

    ヤンゴン

    1957年

    57

    1,000

    ICST

    ヤンゴン

    1988年

     

     

    University of Mandalay

    マンダレー

    1925年

    821

    21,045

    Mandalay Institute of Medicine

    マンダレー

    N/A

    N/A

    N/A

    Mandalay Institute of Technology(MIT)

    マンダレー

    N/A

    N/A

    N/A

    Mawlamyine University

    モーレミャイン

    1953年

    305

    11,500

    (出所)The World of Learning 1996, 46th edition, Europe Publications Ltd.

     

     ヤンゴン工科大学(YUT、元YIT)はソ連の援助により1950年代後半に建設されたものであり、1964年に独立の工科大学となった。コンピュータ関係の学科はないが、エレクトロニクス関係の学科があり、同学科の卒業生もコンピュータ分野における重要な人材供給源となっている。

     またマンダレーではマンダレー工科大学(MUT、元MIT)があり、同校は北部諸州の学生を対象としており、やはりコンピュータ関係の学科はない。

     これらの高等教育機関は全て教育省の管轄下にあったが、ヤンゴン工科大学(YUT)、マンダレー工科大学(MUT)、ヤンゴンコンピュータ科学技術大学(MUCS)及びマンダレーコンピュータ科学技術大学(MUCS)の4校は97年1月より科学技術省の管轄下に移管されることになった。

     

    表6 ミャンマーの高等教育

     

    82/83

    87/88

    92/93

    93/94

    94/95

    95/96

    学校数 (Universities)

    (Degree Colleges)

    (2-Year Colleges)

    10

    4

    14

    10

    6

    11

    22

    7

    10

    23

    7

    10

    23

    7

    10

    23

    7

    10

    教官数 (Professional Institutes)

    (Non-professional Inst.)

    1,537

    1,888

    1,536

    5,251

    1,551

    4,345

    1,496

    4,569

    1,634

    4,518

    1,696

    4,850

    学生数 (Professional Institutes)

      (Non-professional Inst.)

    15,149

    47,527

    17,629

    112,327

    17,406

    227,716

    18,858

    216,386

    19,352

    229,018

    20,909

    317,955

    (出所)Central Statistical Organization, "Statistical Abstract 1996"

     

  7. 情報産業の歴史及び現状
  8.  ミャンマーの情報技術産業は、正に、発展の初期段階にある。

     ミャンマー最初のメインフレーム(ICL1902) は、1973年に大学コンピュータセンターに設置された。ミャンマーでのコンピュータ教育はこの環境下で開始された。多くの政府機関が自身の業務のためにコンピュータシステムを導入している。例えば、森林省、センサス局、中央統計機関、港管理局、電力公社、気象庁、第一工業省、通信省、国防省、大蔵省等。

     IBM 、HP、DEC 等のミニコンピュータが、各種の業務のために導入されている。例えば、森林資源調査、センサス、国家社会経済データベース、費用請求等。政府機関のほとんどのコンピュータ・プロジェクトは国際機関により資金援助されたものである。

     1988年以前は計画経済体制であり、民間企業は、石油ガス探査採掘会社を例外にして、コンピュータ化が進まなかった。 

     パソコンは、1983年以降、輸入が可能となった。少数のIBM 、アップル、NEC 及びIBM コンパチ機が輸入された。

     1988年以降、ミャンマーはその経済体制を自由経済型に変更し、民間部門の役割が重要となり、技術移転が早くなされるようになった。しかし、ミャンマーの経済社会情勢の変化は情報技術の世界での動きを必ずしも反映していない。

     ミャンマーの民間コンピュータ関連企業及び研修スクールは、コンピュータ研修、パソコン及び同部品販売、ハードウエア設置作業及びサービス機能を開始している。ほとんどの活動がヤンゴンに集中しており、ほんの少社がマンダレーにも存在する。機器はパソコンであり、応用ソフトウエアはテーラー・メイドである。スタンドアロン型及びLAN 型がある。すべてのハードウエア及びソフトウエアは、主にシンガポール及びマレーシアからの輸入である。一部、日本、台湾、韓国からの輸入がある。推定輸入パソコン数は、累計10万台弱、ほとんどがクローン機である。この間、数台のミニコンが政府及び民間業務にために輸入された。多くのパソコン・サーバーが、ホテル、銀行やLAN 応用システム用に輸入されている。外国コンピュータ製造企業の事務所や工場は無い。

    96年末現在で49社のパソコン輸入販売企業があり、93年以降はローカルに組み立てを行うものが主流となっているが、月間販売台数が精々数十台という規模であるから、組み立てラインといっても机一つに計測機が置いてある程度の簡単な「作業場」が各販売店に置かれているだけである。

    ブランドものとしてはAppleCOMPAQが有力である。修理の簡便性という観点からデスクトップ型がほとんどであり、ラップトップはまだほとんど見られない。Appleは米国内での不買運動の圧力等を受けて1995年10月にミャンマー市場から撤退するとの発表を行った。プリンターとしてはレーザー式が60%、インクジェット式が15%、ドットマトリックス式が25%となっており、HPCANONEPSONがそれぞれの分野での有力ブランドとなっている。周辺機器としては3.5インチのフロッピーディスク装置がその大部分を占める。

     

    民間会社KMDのパソコン組立室。月産20台程度の組立と修理を行っている。

    ミャンマー全体では49社の販売会社があり、その年間販売台数は96年で約12、000台程度。

     

    表7 ミャンマーのコンピュータ(ハードウェア)販売企業

    業態

    会社数

    コンピュータ本体の販売(PC)

    40社

     

    コンピュータ本体の販売(Apple)

    4社

    プリンター販売

    2社

    周辺機器販売

    3社

    販売会社合計

    49社

    (出所)現地業界誌"Computer Journal"誌の推計による。1996年調査。

     

     

    ソフトウエアについては、著作権法は未だ制定されていない。ミャンマーでの情報技術の発展のためには、今後、著作権法が必要となってこよう。

     事務所システムでは、マイクロソフトのウインドウズやオフィスが一般的である。地元で開発された銀行、ホテル、スーパーマーケット、会計処理、在庫管理、給与計算、請求書、職員履歴管理及び経営システムが増大している。

     

    ソフトウェア企業と呼べるものはまだ10数社しかない。大部分は銀行およびホテル用のアプリケーションソフトを作成している企業であり、一部には外国の企業向けにソフトウェア開発の下請けを行っている企業も出始めているようだ。

     

     

     

  9. 通信関連の動向
  10.  

     ミャンマー郵便通信省が、郵便及び通信のミャンマーでの独占事業者である。民間事業者は将来認可される可能性もある。現時点では、民間への認可はなされていない。

     郵便通信分野でも近代化に努力が払われている。現在、郵便通信省は、1230の郵便局、414 の電話局、210 のテレックス端末、1837のファックス機を有している。電話サービスについては、499 の電話交換機を有しており、その交換機は19,635の直通ライン又は209,425 の電話番号に接続されている。41,489台の電話機が416 台の手動交換機に、4,657 台の電話機が15台のクロスバー交換機に、1,632 台の電話機が5 台のアナログESS 交換機に、119,757 台の電話機が63台のディジタルESS 交換機に接続されている。

    ヤンゴンとマンダレーにおいて、携帯電話サービスが開始されている。電話機の増大に伴い、長距離電話回線の増強が図られている。さらに郵便通信省では、電話回線の拡大に取り組んでおり、既存のPSTNネットワークに加え、TDMAワイヤレス、CDMAワイヤレス、DECT無線電話、セルラー電話等の多種類の技術を導入している。さらに、PAC X.25パケット・スイッチングデータネットワークを導入している。近い将来には、ISDNとし、さらにインターネットとの接続も可能となるであろう。

     

  11. 情報技術の応用の現状

 

(1) 公的及び民間部門でのコンピュータ応用

 ミャンマーでのコンピュータ応用は、公的及び民間部門とも極めて初期の段階にある。

民間部門の方がより成功している。例えば、ほとんど全ての民間銀行は情報システムを使用しているが、政府銀行でのコンピュータ利用は依然として低レベルである。今後、公的部門での積極的なコンピュータの利用が望まれている。

(2)経済部門でのコンピュータ応用

 ミャンマーでは、民間部門の一部でコンピュータ利用が進んでいるのみである。ミャンマーでは、金融部門が比較的最もコンピュータ化が進んでいるが、ATM やスマート・カードシステム等のオンラインやインタラクティブ・システムは、データ通信能力不足のため、ごく限られた地域のみで利用可能である。銀行間のコンピュータ化は実現していない。民間銀行と政府系銀行の協力が必要である。不効率な手作業は金融取引を遅らせるだけでなく、他の商業分野や製造分野にも悪影響を与える。さほど遠くない将来には、金融取引が電子的に行われるようになるであろう。金融部門は、コンピュータ化の優先分野である。

 政府系銀行である外国貿易銀行は、シンガポールDBS 銀行からコンピュータシステムを導入し、利用している。記録媒体は、磁気テープベースであり、極小規模なコンピュータシステムである。( システム概要は別添のとおり)

 

 製造業部門でのコンピュータ化は未だ幼稚段階にある。製造部門での情報技術導入の準備は長期間が必要である。

 教育部門でのコンピュータ利用は進んでいる。コンピュータは、広く、教育ツールとして認められている。先生の研修が重要である。情報技術は、情報技術を教えることに使われるのみならず、英語や科学、数学の教育にも用いられている。教育分野への情報技術利用を総合的な計画に従って進めることにより、状況は格段に進展するであろう。インターネット上の膨大な知識ベースにアクセス可能となれば、生徒にとって非常なる利益となろう。

健康・医療分野のコンピュータ利用は非常に遅れている。コンピュータ利用の医療機器は大病院でも一般的ではない。ほとんどの病院では、患者レコードや病気の情報及び治療法を記録しておく、十分なシステムを有していない。

 

(3) 経営活動分野

 ミャンマーでのコンピュータ利用は、取引処理や運営管理の分野であり、より高い経営レベルでのコンピュータ利用はほとんど無い。

  

(4)機能別の情報技術の動向

 ミャンマーでのコンピュータ利用は、事務管理、職員情報管理等の本体支援機能が多い。

 

(5) 統合化システム

 ミャンマーにおいては、組織間の統合化システムはほとんど存在しない。今後、中央銀行と他の銀行とのコンピュータネットワーク化が必要となってこよう。

 

(6)コンピュータ利用の形態

 ほとんどがバッチ処理型である。

 

(7) 地域別のコンピュータ応用の状況

 ほとんどのコンピュータシステムが首都であるヤンゴンに集中している。ミャンマー第二の都市であるマンダレーにも情報技術企業が数社存在している。