シンガポールにおける情報化時代の人材育成の実態

平成12年2月、CICCシンガポール

ジェトロ・シンガポール・センター  

<要旨>

1.情報化社会に対応した人材育成に対する政府の政策

1−1.シンガポール政府のIT政策全般

 シンガポール政府は情報技術分野をシンガポールが比較優位を発揮できる分野として、長期的な戦略投資を行ってきている。1992年にはIT2000計画をシンガポールITマスター・プランとして発表し、1996年にはシンガポール・ワン計画を開始している。さらに、21世紀に向けたITマスタープラン「ICT21」を現在作成中で、2000年第1四半期にはこれが発表される予定である。

1−2.公立校の現状と情報化教育政策

 シンガポールでは2000年に4万人以上のIT技術者が必要とされている。こうした中で、小中学校を含む公立校に対するIT教育は非常に重要であると認識されており、1997年に「教育分野におけるITマスタープラン」が発表された。この計画は現在の所順調に進んでいると言える。又、このIT教育マスタープランの実施及びIT教育を専門に検討する組織としてシンガポール教育省内にEducational Technology DivisionETD)が設置され、職員約220名が従事している。

 

2.公立校における情報化教育の実態

 IT教育マスタープランにおいて、2002年までに実現すべき目標は以下の通りである。

  1. コンピュータを活用した授業を、授業全体の30%とする。
  2. 生徒2名に1台のコンピュータを設置する。
  3. 全学校のネットワーク化、全ての教室及び学習エリアからのインターネット、デジタルメディア、コースウェアへのアクセスを可能とする。シンガポール・ワンへの接続。
  4. 学校間にまたがる教師同士のリソースの共有を可能とする。
  5. 小学校4年生以上の全生徒へのインターネットアカウント配布

 現在小学校では生徒6名に1台、中学校/高等学校では5名に1台、教師2名に1台の割合でパソコンが設置されている。

 高等学校以上の高等教育機関は、2 大学( 国立シンガポール大学 (学生数:17,960 )及び南洋理工大学 (学生数:15,661 )) 及び4 ポリテクニックであり、2 大学では、国立シンガポール大学がIT教育では一歩進んでおり、IT関連教育を実施する独立学部を有している。

 4 ポリテクニックのIT関連コースの学生数は次の表のとおりである。各ポリテク共に学生数は年々拡大しており、4000名を超えている。

       表:ポリテクニックのIT関連コース学生数の推移

ポリテク名

1996/1997

1997/1998

1998/1999

シンガポール・ポリテクニック

872

1032

1148

ニーアン・ポリテクニック

1041

テマセック・ポリテクニック

1056

1147

1379

ナンヤン・ポリテクニック

612

714

924

合計

2540

2893

4492

  ※ニーアンポリテクニックの前2年はデータ無し。

3.情報化社会に対応した人材育成の実態

 企業独自で研修制度を実施している企業は少ないが、政府の民間部門に対するIT技術者教育促進のための支援策に関しては、国家コンピュータ庁がCITREP(Critical IT Resource Programme)を、国家標準生産性庁(PSB: The Singapore Productivity and Standards Board )Skills Development Fund 制度を通じて実施しており、企業もこれを積極的に利用している。

 オンライン教育(バーチャル教育)の実態では、小学校でもこれを実験的に開始しており、ポリテクニックでは3校が本格的に実施している。

 

4.情報化教育に係わる市場実態

 IT教育マスタープランの予算は1997年からの5年間で20Sドル。それに加え年間6Sドルが予算措置されている。単純計算では、年間10SドルのIT教育関連市場が発生していることになる。マスタープランの最終目標である生徒2名に1台のコンピュータを実現するためには、今後3年間で16万台以上のパソコンが公立学校に導入されなければならない。予算不足は否めない感があるが、それに合わせるように、IT環境整備も含めた校舎改築の新計画「PRIME計画」を打ち出し、更なる予算措置を講じる等、シンガポール政府の行動は早い。目標は確実に達成されると期待される。

 5.我が国のインプリケーション

 絶対的な学校数の差はあるが、日本とシンガポールの公立学校における情報化格差は非常に大きい。小学校の例を見ても分かるように、1校当たりのパソコン導入台数、ネットワーク化比率の乖離は特に激しい。小学校における情報化の日−シ比較は以下の通りとなっている。

比較項目

日本

シンガポール

学校数

23,686

195

PC導入比率 (対全小学校)

97.7%

100%

PC導入台数 (全小学校)

297,845

45,000

1校当たりPC台数

12.9

233

ネットワーク接続化率

27.4%

100%

職員室PC導入台数

1校当たり1.7

2名の教師で1

今後のPC導入目標台数

1校当たり22

生徒2名で1

 シンガポールの小学校では、既に黒板を利用しておらず、PC液晶プロジェクターとパワーポイントによって先生が授業を行っている。また、今後、教室へのPC設置台数とカリキュラムへのIT利用が増大するに伴い、教室のレイアウトをグループ学習型に変更しつつある。さらにITを活用することにより、生徒の創造性(クリエイティビティ)能力を向上させることを目指している。

 日本もバーチャルエージェンシーの一環として「教育の情報化プロジェクト」が報告され、初等中等教育へのIT導入促進が発表されたところであるが、その目標年度は2005年とされており、シンガポールの後塵を拝している。今後、教育カリキュラム、教師に対する研修、教室のレイアウト、授業方法を含めた大幅な改革を行いながら、この目標に向かって速やかにそして確実に日本のIT教育が進展していくことを期待したい。

 本報告書が日本の教育分野へのIT利用の円滑な促進に少しでも役立つことを祈念する。

(担当:JETROシンガポールセンター/渡邊 喜一郎)